同友会と私「株式会社 レコー」

同友会と私

「株式会社 レコー」
取締役　前田麻記子

あの頃、私は30歳半ばを過ぎ、亡くなった父の事業を引き継ぎ、経営のイロハもわからぬまま、為す術もなく、代表である母と共に、目の前にある仕事をこなすだけで精いっぱいの毎日であった。このままではいけない。焦る気持ちが私を外に向かわせた。少しでも事業内容に関係のありそうな所になんとか仕事に結びつけることはできないかと、いろんな所に足を運んだ。

そんな最中、同友会に入会し、経営に関する様々な問題を真摯に受け止め、熱心に取り組む諸先輩方、そして同年代の仲間を得た。仲間の仕事に向き合う姿勢から刺激をもらい、また、仕事一辺倒の自分の生き方を肯定してもらったような気がして、非常に嬉しかったのを覚えている。

そして、一方で、女性の働き方というものと常に対峙しながら、自問自答していた。幼い子どもたちを育てながら、時には子育てより仕事を優先し働かねばならない状況に、ある種の諦めと罪悪感がついて回った。そして、世間一般、男性が背負うべき一家の大黒柱という役目を、女性の私が担わなければならないということに対する苛立ちを、一時的であっても払拭させてくれたのが、また、皮肉にも仕事を達成することで得られる自己肯定感だったのである。私は同友会活動と経営の両輪で仕事への充実感を深めていき、仕事にのめり込んでいった。

それから数年が経ち、がむしゃらで頑なな私の働き方はきっと男性である当時の夫のプライドを打ち砕くものであったのであろう、そして、私も彼に対して仕事に関する姿勢に尊敬の念は抱けなかった。お互いがお互いの未来に絶望した私たちは、離婚という選択をした。

それからの私は、母子家庭の母親がたいていそうであるように、仕事よりもまずは子どもの心身の健康を考慮し、働き方を変えた。夜の会合は控え、夕方以降の打ち合わせや現場仕事はスタッフに任せて、家に居るようにした。当然、同友会への参加率は格段に減りはしたが、そうすることで新たな気付きもあった。以前は私ひとりで会社も家庭も回しているような気でいたが、実はそうではない。社長がおり、従業員がおり、家族がおり、いろんな人に支えられて私は生かされている。そう感じた。頼るということも時には必要だ。自分ひとりでなんでも背負うことはかえって、周りを殺伐とさせる。上手に甘えて、肩の力を抜いた方が、楽だし、そして何より自分も家族も笑顔でいられる。

そんな風に思えるようになった矢先、ある男性と知り合った。彼は、私より10歳下であったが、随分と大人びて生き急いでいるように見えた。若いのにとてつもなく大きいものを背負ってひた走る姿はかつての自分を見ているようであり、そして私のそれとは比べ物にならないようなプレッシャーの中、強く元気に振る舞う様はそばで見ていて痛々しいほどであった。政治家を志す彼は、翌年に県議会議員選挙という２度目の挑戦を控え、私生活にも甚大なる犠牲を払いながら、正に命を懸けて自分に与えられた使命を全うしようと懸命に生きていた。私はこんな風に仕事をする人間を見たことがなかったし、驚きと共に、尊敬と大げさだが高知の未来に夢と希望が見えた気がした。

私は彼と再婚し、子どもを授かり、政治家の妻となり、今も仕事も続けている。姓が変わり住まいが変わり、家族が増え、以前とは生活ががらりと変わった。働き方も変わった。経営者として、妻として、母として、女性として、どうあるべきか…相変わらず自問自答しながらの毎日である。が、ひとつ言えることは、同友会で経験した事勉強した事すべてが、私の仕事道の道標となっている。そして、私は、今、幸せだ。